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    2010

11.16

熱砂の覇王の粋な夏姿

「アシュリー、何してるの? 早くお祭りに行こう!」
桜太は、いつまでも部屋から出てこないアシュリーに痺れを切らせて、せかしに行った。
「待ってくれ、桜太。浴衣を、せっかく登志子さんに着付けてもらったんだが、上手く決まらないんだ」
そう言うアシュリーの周りを、桜太はクルッとまわる。
「ちゃんと着れてるみたいだけど? アシュリーは身体が大きいから、ちょうどいい既製品の浴衣が売ってなかったんだよ。それで母さんが急いで縫ったから、着心地が悪いのかもしれないな」
「いや、登志子さんが縫った物に間違いはない。……だが……」
「だが?」
「せっかく祭りに行くというのに、なんて言えばいいのか、……上手い日本語表現が解らないが、どうもトラディショナルすぎる」
「そもそも浴衣って、トラディショナルなもんなんじゃない? 特に外人のアシュリーから見ると……」
「しかし、バルクは、日本のお祭りというのは、少々型を崩した方がイケているものだと言っていた」
「何をバルクさんに吹き込まれたか知らないけど、せっかくイケメンなんだから正統派でいいと思うよ」
「イケメンなら、いつも取り澄ましていないといけないというわけではないだろう。時には羽目を外したくなる」
「……『イケメン』っていうのは、全肯定なんだね」
「違うというのか?」
「……違いません」
アシュリーは、大きな鏡に、雑誌のモデルも泣いて謝るくらいの、カッコイイ姿を映し、不満そうに眉間に皺を寄せている。
普通に見ると、ナルシストでそういう行動を取っているように見えるが。
たぶん、アシュリーは大まじめに悩んでいるのだ。
桜太にはそれが解る。
「ねぇ、アシュリー。日本のお祭りでイケてる浴衣姿になるのは、実は簡単だよ」
「簡単なのか? その方法は?」
桜太はクスッと笑う。
「その方法は、今すぐにお祭りへ行くだけ。……今夜だけは目立つのを許してあげるから、アシュリーが満足するまで、夜店でお面や綿菓子やリンゴ飴を、たっくさん買おう」
「たくさん買い物をするのと、私の着こなしとなんの関係がある?」
「関係あるよ」
「ふむ。確かにお面をかぶれば、お祭りらしい着こなしになるかもしれんな」
「それだけじゃないよ。あと、金魚掬いもしよう。粋な浴衣姿の男は金魚掬いが上手いもんなんだよ!」
「……そうなのか?」
「そうそう。今のアシュリーに足りないのは、実践のみ! さぁ、行くよ!」
「実践のみか。確かにそうかもしれない。……で、桜太。わたしの浴衣姿はどうだろうか?」
え? まだこだわるの? と、桜太は思ったが。
非常にわかりにくいが、アシュリーは少し緊張しているんだということに気がついた。
「日本の夏祭りはね、元々崩すほどの型なんてないんだ。『踊るアホウに見るアホウ、同じアホウなら踊らにゃそんそん』っていうことなんだから。……解った?」
「……ひとまず、踊ればよいということだな?」
「そうそう、踊って、金魚掬って、綿飴食べればいいんだよ。アシュリーにそうやって楽しんでほしくて、母さんは浴衣を縫ってくれたんだから。だから、行こう!」
桜太は、勢いよく、アシュリーの長くて逞しい腕を引っ張った。
「そうだな。私としたことが少し焦ったのかもしれない。桜太の言うとおり、まずは実践して、日本の和装の似合う男になることにしよう」e
別に、アシュリーに和装の似合う男になってほしいと、誰も望んでない。
正直なところそう思ったが、またアシュリーが悩んでしまうので、桜太は黙っていた。


今夜は2人で行く初めての夏祭り。
桜太が愛するアシュリーと、桜太と日本を愛するアシュリーの、楽しい楽しい夏祭り。 END



2007年発売 ダリア文庫『熱砂の覇王に愛されて』サイドストーリー折り本(2010年夏コミ発行)


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